Bluetoothオーディオコーデック大全:aptX以外の主要規格を解説(2025年版)
前回の記事ではaptXファミリーを中心に取り上げましたが、Bluetoothの世界には他にも多彩なコーデックが存在します。本稿ではSBC/AAC/LDAC/LHDC/Samsung Seamless Hi‑Fi(SSC)/LC3/L2HCという aptX以外 の主要規格を網羅し、それぞれの技術的背景・ビットレート・音質傾向・遅延・採用デバイス・メリット/デメリットを詳しく解説します。ワイヤレス再生環境を最適化したいユーザーはぜひ参考にしてください。
主要コーデック仕様早見表
コーデック | 最大ビット深度/サンプリング レート | ビットレート範囲 (最大値) | 特長 |
---|---|---|---|
SBC | 16‑bit/48 kHz | ~345 kbps | Bluetooth A2DP必須・汎用 |
AAC | 24‑bit/44.1 kHz | ~320 kbps | iOS標準・動画同期良好 |
LDAC | 24‑bit/96 kHz | 330/660/990 kbps | Sony開発・ハイレゾ志向 |
LHDC (V4/V5) | 24‑bit/192 kHz | 400–1000 kbps | Savitech開発・低遅延/高音質 |
Samsung Seamless Hi‑Fi | 24‑bit/96 kHz | 88–512 kbps | Galaxy × Buds系限定・動的可変 |
LC3 (LE Audio) | 32‑bit/48 kHz | ~345 kbps | Bluetooth 5.2以降・省電力 |
L2HC (v1〜v4) | 24‑bit/96 kHz | 320 kbps~1.5 Mbps | Huawei独自・高ビットレート |
SBC(Subband Codec)
Bluetooth A2DPの必須コーデックで、すべてのデバイスがサポートする「共通語」です。16‑bit/48 kHzまで扱えますが、実装の多くは328 kbps前後で動作し、音質は可もなく不可もなく。遅延は200 ms超えるケースが多く、ゲームや楽器練習には不向きです。とはいえ最新OSではエンコーダ改善が進み、SBC XQ(高ビットプール版)ならaptX HD級の測定結果も報告されています。
AAC(Advanced Audio Coding)
主にApple iOS/iPadOS/macOSで標準採用されるコーデック。44.1 kHz/24‑bit相当を最大320 kbpsで送出し、遅延補正がOSレベルで行われるため動画視聴のリップシンクが良好です。一方、AndroidではOS側エンコーダの負荷が高く、可変ビットレートが安定しない機種もあるため、音質面でLDAC・aptX系に劣る場合があります。
LDAC(Sony)
Sonyが開発したハイレゾ・フレンドリーなコーデック。24‑bit/96 kHzを最大990 kbpsで伝送し、“ワイヤレスでもハイレゾ相当”を掲げます。Android 8.0以降はOS標準実装ですが、一部端末(Galaxyなど)では設定で「HDオーディオ:LDAC」を手動ONにする必要があります。電波状況に応じて330/660/990 kbpsへ自動スイッチし、最高モードでは可聴帯域の周波数応答が優秀。ただし990 kbps時はパケット損失に弱く、混雑環境で瞬断しやすい点が弱点です。
LHDC(Low Latency & High Definition Codec)
Savitech社がLDACへの対抗馬として開発。最新のLHDC V5は24‑bit/192 kHzを最大1 Mbps程度で伝送し、アルゴリズム最適化により40 ms級の低遅延を両立します。Xiaomi・OPPO・HUAWEIなど中華系スマートフォンが中心に採用しており、Hi‑Res Wireless認証を取得したイヤホンでは“LHDC”ロゴが目印。ただしiOS未対応、対応SoCが限定的であるなどエコシステムが狭い点に注意が必要です。
Samsung Seamless Hi‑Fi Codec(SSC)
Galaxyスマートフォン+Galaxy Buds 2 Pro以降のイヤホン専用に設計された独自コーデック。24‑bit/96 kHz対応で、88~512 kbpsの帯域をリアルタイムにスケーリングし、接続品質を優先する設計思想が特徴です。Galaxy同士のペアリングで自動有効化され、開発者オプションで確認可能。非Samsung端末では利用できないため、“囲い込み”が賛否を呼んでいます。
LC3(Low Complexity Communication Codec)
Bluetooth 5.2で導入されたLE Audioの基準コーデック。32‑bit/48 kHzに対応しつつ、345 kbpsでもSBCより高音質を実現する効率の良さが売りです。低消費電力・マルチストリーム・Auracast™ブロードキャストへの対応など、次世代オーディオ体験の核となる存在。2024年以降はスマホ(Pixel 8 Proなど)と補聴器/TWSが続々対応を開始しましたが、送受信両方のLE Audio対応が必須で、普及にはもう一段階のデバイス更新が必要です。
L2HC(Low‑Latency High‑Definition Codec)
HUAWEIが提唱する高ビットレート路線の独自コーデック。初期バージョンは960 kbps上限でしたが、L2HC 3.0~4.0では最大1.5 Mbps超を実現し、aptX LosslessやLDACを上回る帯域が売りです。FreeBuds Pro 3/4とPura 70・Mate 60シリーズで「LOSSLESS」表示が可能。高ビット時はスマホ近接が前提のため、優先接続モードでは距離・干渉にシビアになる点は理解しておきましょう。
まとめと選び方
コーデック選定のポイントは次の3つです。
- 音質 vs. 安定性…ハイレゾ志向ならLDAC/LHDC/L2HC、高い接続安定性ならAAC/LC3。
- 遅延…ゲーム・動画重視ならLHDC(低遅延モード)かSamsung SSCが有利。
- エコシステム…iOSはAAC一択、GalaxyはSSC、HuaweiはL2HC、Android汎用ならLDAC・LHDCが現実的。
2025年はLE Audio + LC3がじわじわと普及する過渡期です。イヤホン購入時は「スマホ・タブレット側が該当コーデックを出力できるか」を必ず確認し、用途に合った組み合わせで“ワイヤレスでも妥協しない音体験”を楽しみましょう。
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